SEO施策を実施するには社内稟議の承認が必須ですが、専門性の高いSEO施策は経営層や他部署に理解されづらいことが課題となっています。予算確保や施策実行のためには、SEOの価値と必要性を明確に伝え、稟議を通過させるスキルが不可欠です。本記事では、SEO担当者が社内稟議を効果的に進めるための5つのチェックポイントを解説します。これらのポイントを押さえることで、SEO施策の承認率を高め、サイトのパフォーマンス向上に繋げることができるでしょう。
SEOの社内稟議が通らない主な原因とは
SEO施策を実施するための社内稟議が通らないケースは少なくありません。せっかく良い施策を考えても、稟議段階で却下されてしまっては実行できません。まずは、なぜSEOの社内稟議が通らないのか、その主な原因を理解しましょう。
SEO施策の稟議が通らない背景には、経営層やその他の部署との認識のギャップが存在しています。SEOの専門性が高く、その効果や重要性が組織内で十分に理解されていないことが多いのです。
SEOの効果が数値で示しにくい
SEO施策の最大の難関は、その効果を明確な数値で示すことが難しい点です。SEOは即効性のある施策ではなく、成果が表れるまでに時間がかかることが一般的です。SEO施策を実施してから実際に検索順位が上昇し、それによってコンバージョンが増加するまでには、通常3〜6ヶ月程度の期間を要します。このタイムラグが、特に短期的な成果を求める経営層には理解されにくいのです。
また、SEOの効果は検索アルゴリズムの変更やライバルサイトの動向など、外部要因に影響される部分も大きいため、確実な結果を保証することが難しいという特性もあります。
専門用語が多く理解されにくい
SEOには「インデックス」「クローラビリティ」「バックリンク」「コアウェブバイタル」など、専門用語が数多く存在します。SEO担当者にとっては日常的な用語でも、経営層や他部署の担当者にとっては馴染みのない言葉ばかりです。専門用語を多用した説明は、稟議決裁者に「何を言っているのか分からない」という印象を与え、結果的に施策の価値が正しく評価されない原因となります。
専門用語を使わないと正確に伝えられないジレンマもありますが、稟議書では可能な限りわかりやすい言葉に置き換えることが重要です。
コストに対する投資対効果の説明不足
SEO施策には、コンテンツ制作費用、ツール導入費用、システム改修費用など、様々なコストが発生します。しかし、これらのコストに対する具体的な投資対効果(ROI)の説明が不十分なケースが多いのです。SEO施策への投資が「どれだけの売上増加につながるのか」「どの程度のコスト削減効果があるのか」といった点が明確に示されないと、経営層は予算承認に消極的になります。
特に予算が限られている中小企業や、業績が芳しくない時期においては、ROIの明確な説明がなければ、他の施策に予算が振り分けられてしまうことがよくあります。
SEOの社内稟議を通すための5つのチェックポイント
SEO施策の社内稟議を通すためには、準備段階から効果的なアプローチを取ることが重要です。ここでは、SEOの社内稟議を通すために特に重要な5つのチェックポイントを詳しく解説します。
これらのポイントを押さえることで、専門性の高いSEO施策であっても、社内の理解を得やすくなり、稟議の通過率を高めることができるでしょう。
1. 経営目標との紐付けを明確にする
SEO施策を提案する際には、それが会社の経営目標にどう貢献するのかを明確に示すことが不可欠です。SEO施策を単なる「検索順位の改善」ではなく、「売上向上」「新規顧客獲得」「ブランド認知度向上」といった経営目標に紐付けて説明することで、経営層の理解を得やすくなります。
例えば、「このSEO施策により特定のキーワードでの検索順位が上昇すれば、月間約○○件の追加トラフィックが見込め、それによって約××円の売上増加が期待できる」といった具体的な数値を示すと説得力が増します。
また、経営層が重視している指標(KPI)に合わせた説明も効果的です。費用対効果を重視する経営層には投資回収期間(ROI)を、顧客獲得を重視する経営層には顧客獲得単価(CPA)の改善効果を中心に説明するなど、ターゲットに合わせたアプローチを取りましょう。
2. 競合他社の成功事例を具体的に示す
競合他社がSEOに成功している事例を示すことは、自社でのSEO施策の必要性を説得する強力な材料となります。「同業他社がSEOに力を入れて成果を上げている」という事実は、経営層に危機感を与え、SEO施策への投資を検討するきっかけになります。
具体的には、競合他社のオーガニック流入数の推移、主要キーワードでの検索順位、SEOに関連する採用情報などを調査し、データとして提示します。これらの情報は、SimilarWeb、SEMrush、Ahrefsなどの競合分析ツールを使って収集できます。
ただし、他社の内部情報に基づく推測を事実のように伝えることは避け、あくまで外部から観測可能な客観的なデータに基づいて説明することが重要です。また、競合他社だけでなく、業界のトレンドとして「多くの企業がSEOに注力している」という大きな流れを示すことも効果的です。
競合分析ツール | 主な機能 | 月額費用の目安 |
---|---|---|
SimilarWeb | トラフィック分析、流入経路分析 | 約30,000円〜 |
SEMrush | キーワードランキング、広告分析 | 約12,000円〜 |
Ahrefs | バックリンク分析、コンテンツ分析 | 約10,000円〜 |
競合分析ツールを活用すれば、競合他社のSEO状況を客観的に把握することができます。これらのツール自体の導入も稟議が必要な場合がありますが、多くのツールは無料トライアル期間があるため、まずは試用して必要なデータを収集することができます。
3. 投資対効果(ROI)を具体的な数値で示す
SEO施策への投資が具体的にどれだけのリターンをもたらすかを、数値で示すことは稟議を通す上で非常に重要です。経営層は「いくら投資して、いつまでに、どれだけの効果が出るのか」という点に最も関心を持ちます。この点を明確に示せるかどうかが、稟議の成否を大きく左右します。
ROIを計算する際には、以下のようなステップで進めると良いでしょう。まず、SEO施策によって改善が見込まれるキーワードの検索ボリュームを調査します。次に、現在の順位から目標順位に上昇した場合の予想クリック率の変化を計算し、増加するトラフィック数を予測します。
さらに、サイトの平均コンバージョン率と顧客単価を掛け合わせることで、増加トラフィックがもたらす売上増加額を試算できます。これと比較して、SEO施策にかかる費用(人件費、ツール費用、外注費など)を明示し、投資回収期間を示します。
- キーワードの検索ボリューム × クリック率の上昇分 = 増加トラフィック数
- 増加トラフィック数 × コンバージョン率 × 顧客単価 = 売上増加額
- SEO施策の費用 ÷ 月間売上増加額 = 投資回収期間(月)
ただし、SEOの効果は即効性がなく、通常は3〜6ヶ月程度の期間を要することも併せて説明し、現実的な期待値を設定することが重要です。過剰な期待を持たせると、後々の評価時に信頼を失うことにもなりかねません。
4. 専門用語を避け、分かりやすい言葉で説明する
SEOの専門用語をそのまま使用すると、稟議の決裁者に理解されないリスクがあります。SEOに詳しくない人でも理解できるよう、専門用語は一般的な言葉に言い換えるか、使用する場合は必ず補足説明を加えることが重要です。
例えば、「インデックス」は「Googleのデータベースへの登録」、「バックリンク」は「他サイトからの被リンク(引用・推薦)」、「コアウェブバイタル」は「Googleが評価するサイトの使いやすさの指標」といった具合に言い換えます。
SEO専門用語 | 分かりやすい言い換え例 |
---|---|
インデックス | Googleのデータベースへの登録 |
クローラビリティ | Googleロボットが情報を集めやすいサイト構造 |
バックリンク | 他サイトからの被リンク(引用・推薦) |
コアウェブバイタル | サイトの読み込み速度や操作性の指標 |
ドメインオーソリティ | サイト全体の信頼性・権威性の評価 |
また、SEO施策の説明においては、技術的な詳細よりも「なぜ」その施策が必要で、「どのような」効果をもたらすのかという点に焦点を当てることが大切です。例えば「サイトの構造を改善することで、お客様が欲しい情報を見つけやすくなり、結果として問い合わせや購入につながりやすくなります」といった説明は、技術的な詳細を知らなくても理解しやすいでしょう。
5. 実施スケジュールと評価指標を明確にする
SEO施策の実施スケジュールと、その効果を測定するための評価指標(KPI)を明確に示すことは、稟議を通すための重要なポイントです。「いつまでに」「何を」実施し、「どのように」効果を測定するのかという点が明確であれば、経営層も施策の進捗と効果を把握しやすくなり、承認の判断材料になります。
実施スケジュールは、SEO施策の内容に応じて3ヶ月、6ヶ月、1年といった中長期的な視点で設計し、各フェーズで何を実施するのかを具体的に示します。例えば「第1フェーズ(1-2ヶ月目):サイト構造の最適化と技術的SEOの改善」「第2フェーズ(3-4ヶ月目):コンテンツの拡充と質の向上」などです。
評価指標(KPI)については、検索順位やオーガニックトラフィックといったSEO特有の指標だけでなく、コンバージョン数や売上など、ビジネス目標に直結する指標も含めることが重要です。以下のように、短期・中期・長期に分けてKPIを設定すると効果的です。
- 短期(1-3ヶ月):インデックス状況の改善、クロールエラーの減少、ページ表示速度の向上
- 中期(3-6ヶ月):ターゲットキーワードの検索順位向上、オーガニックトラフィックの増加
- 長期(6ヶ月-1年):コンバージョン数の増加、オーガニック経由の売上向上、ROIの実現
また、定期的な報告体制についても明示し、「毎月第一営業日にKPIの達成状況レポートを提出する」といった具体的な約束を示すことで、プロジェクトの透明性と信頼性を高めることができます。
効果的なSEO稟議書作成のためのテンプレート
SEOの社内稟議を効果的に進めるためには、稟議書の構成と内容が非常に重要です。ここでは、SEO施策の稟議書作成に役立つテンプレートを紹介します。このテンプレートを基に、自社の状況に合わせてカスタマイズしてください。
稟議書は経営層が最初に目にする資料であり、ここでの印象がその後の判断に大きく影響します。簡潔でありながら必要な情報を網羅した、説得力のある稟議書を作成しましょう。
稟議書の基本構成と記載すべき内容
SEO施策の稟議書は、一般的な稟議書の形式に沿いつつ、SEO特有の要素を盛り込む必要があります。稟議書は「なぜこの施策が必要なのか」「どのような効果が期待できるのか」「どのように実施するのか」という三点を明確に伝えることを意識して作成しましょう。
以下に、SEO施策の稟議書における基本的な構成要素を示します。これらの要素を含めることで、SEOに詳しくない決裁者にも理解しやすい稟議書になります。
- 表題(件名):「SEO施策による売上向上プロジェクト実施の件」など
- 稟議の目的:なぜこのSEO施策が必要なのかを簡潔に説明
- 現状分析:現在のサイトパフォーマンスとSEO状況の分析
- 提案内容:実施するSEO施策の具体的な内容
- 期待される効果:トラフィック増加や売上向上などの定量的効果
- 費用明細:施策実施に必要な費用の詳細
- 実施スケジュール:いつまでに何を実施するかの工程表
- 評価指標(KPI):効果測定のための具体的な指標
- リスク分析と対策:想定されるリスクと対応策
特に重要なのは「期待される効果」の部分です。ここでは、SEO施策がもたらす効果を、できるだけ具体的な数値で示すことが求められます。「検索順位が上がる」だけでなく、「検索順位が○位上昇することで、月間トラフィックが約××件増加し、それによって年間約△△円の売上増加が見込まれる」といった具体的な数値を示すことで説得力が増します。
効果的な資料添付と視覚化のポイント
SEOの稟議書では、専門的な内容を分かりやすく伝えるために、適切な資料添付と情報の視覚化が効果的です。グラフやチャートを活用して複雑なデータを視覚的に示すことで、SEOに詳しくない決裁者でも直感的に理解しやすくなります。
効果的な視覚化のためには、以下のような資料を稟議書に添付することが推奨されます。これらの視覚資料は、本文の説明を補強し、より説得力のある提案につながります。
- 現状のオーガニックトラフィック推移グラフ(過去6ヶ月〜1年分)
- 主要キーワードの現在の検索順位と目標順位の比較表
- 競合他社とのSEOパフォーマンス比較チャート
- SEO施策実施後の予測トラフィック・売上グラフ
- 投資対効果(ROI)の推移予測グラフ
- ガントチャート形式の実施スケジュール
視覚資料を作成する際は、複雑すぎるグラフや専門的な用語が並ぶ表は避け、一目で理解できるシンプルな構成を心がけましょう。また、グラフや表には必ず簡潔なタイトルをつけ、必要に応じて補足説明を加えることも重要です。
SEO稟議を通した後のフォローアップと報告体制
SEO施策の稟議が承認されたら、それで終わりではありません。むしろ、本当の挑戦はここからスタートします。継続的な報告と成果の可視化によって、経営層からの信頼を築き、次のSEO施策提案もスムーズに進めることができるようになります。
SEO施策は中長期的な取り組みであるため、定期的なフォローアップと報告が特に重要です。ここでは、稟議通過後の効果的なフォローアップと報告の方法について解説します。
定期的な効果測定と報告の仕組み
SEO施策の効果を定期的に測定し、その結果を関係者に報告する仕組みを構築することが重要です。定期的な報告は、SEO施策の透明性を高め、経営層や関係部署からの継続的な支援を得るために不可欠です。また、問題点を早期に発見し、必要に応じて戦略を修正する機会にもなります。
効果的な報告体制を構築するためには、以下の点に注意しましょう。まず、報告の頻度は施策の規模や期間によって調整しますが、一般的には月次報告が基本となります。短期的な施策の場合は週次報告、大規模なプロジェクトの場合は四半期報告を追加するなど、状況に応じて柔軟に対応します。
報告の内容については、稟議時に設定したKPIの達成状況を中心に、実施した施策の進捗状況、成果、課題点、今後の対策などを含めます。特に重要なのは、単なる「SEO指標」だけでなく、「ビジネス指標」との関連性を示すことです。例えば、「検索順位が上昇した結果、オーガニックトラフィックが○○%増加し、それによって問い合わせ数が△△件増加した」といった形で、SEOの成果をビジネス成果に紐づけて報告します。
- 月次報告書の基本項目:KPI達成状況、実施施策の進捗、トラフィック変化、コンバージョン数、売上貢献度
- 定期ミーティングの設定:月1回程度の定期報告会議(15-30分程度)
- 緊急報告の基準:大幅なトラフィック低下や検索順位の急落など、即時対応が必要な事態の発生時
また、報告資料は経営層や他部署の担当者が理解しやすいよう、専門用語の使用を最小限に抑え、グラフや図表を活用して視覚的に分かりやすく作成することが大切です。
成果を数値で示し次の施策につなげる方法
SEO施策の成果を適切に測定し、数値化することは、次の施策提案をスムーズに進めるために非常に重要です。成功事例を積み重ね、それを数値で示すことで、SEOへの投資価値を組織内で確立し、将来的な予算獲得や施策拡大の可能性を高めることができます。
成果を数値で示す際には、施策実施前と実施後の比較データを用意することが効果的です。例えば、「施策実施前と比較して、主要キーワードの平均順位が○○位上昇し、オーガニックトラフィックは△△%増加、コンバージョン数は××件増加した」といった具体的な数値変化を示します。
また、SEO施策の投資対効果(ROI)を具体的に計算して示すことも重要です。「本SEO施策による売上増加額は○○円で、投資額△△円に対するROIは××%となった」といった形で示せば、SEO施策が単なるコストではなく、ビジネスに貢献する投資であることを明確に伝えることができます。
さらに、SEO施策の効果は時間の経過とともに蓄積される特性があるため、長期的な視点での成果も示すことが大切です。例えば「過去1年間のSEO施策の累積効果により、オーガニック経由の売上は前年比○○%増加した」といったデータは、SEOの長期的価値を示す強力な根拠となります。
これらの成果データを基に、次のSEO施策を提案する際は、「前回のSEO施策で○○の成果が得られた。次の施策ではさらに△△の改善が見込まれる」といった形で、過去の成功実績に基づいた説得力のある提案ができるようになります。
まとめ
SEOの社内稟議を通すためには、経営目標との紐付け、競合他社の成功事例の提示、投資対効果の数値化、分かりやすい言葉での説明、明確なスケジュールと評価指標の設定という5つのチェックポイントが重要です。これらのポイントを押さえることで、専門性の高いSEO施策でも社内の理解と承認を得やすくなります。
また、効果的な稟議書作成のためには、基本構成を整え、視覚的な資料を活用することが効果的です。そして稟議通過後も、定期的な効果測定と報告を行い、成果を数値で示していくことで、継続的なSEO施策の実施と予算確保が可能になります。
SEOは即効性のある施策ではありませんが、適切に実施・継続することで長期的なビジネス成長に大きく貢献します。本記事で紹介した5つのチェックポイントと稟議書作成のポイントを活用し、効果的なSEO施策を社内で推進していきましょう。